●受皿でコーヒーを飲む
「カップにソーサー」ごく当たり前の組み合わせ。
そしてソーサーはカップをのせ、こぼれても下を汚さない「受け皿」として使います。
お客様にお茶を出すときは、コーヒーカップだけでなくソーサーを添えるのが
礼儀作法と思っています。
まして、そのソーサーでお茶を飲むなんて「もってのほか」と思いませんか。
ところが「所変われば品変わる」とはよく言ったもので、
ルイ・マラン・ボネの「コーヒーを飲む女」(1774年)という版画で、
フランス貴婦人とおぼしき女性がコーヒーを受け皿にあけているのを見たとき、ジョークなのか、風刺絵なのか
はじめは何をしているのかと思いました。
この絵の解説に、「コーヒーを飲むことは、宮廷社会で暇つぶしの一つとして好まれていた」とあり、
温かそうなコーヒーを右手小指を ピン と立て、ソーサーに注いでる姿のなんとも様になっている風です。
一方
イギリスの作家 ジョージ・オーウェル(George Orwell, 1903年6月25日 インド - 1950年1月21日 ロンドン)は、
彼の伝記の中で紅茶を飲む時、必ずカップから受け皿にあけて大きな音をたてて吹き、すすり込んだと書いてあったそうです。またこの飲み方は、
「イギリス労働者階級のやりかた」ともあったそうです。
全体主義国家によって分割統治された
近未来世界の恐怖を描いている『1984年』(Nineteen Eighty-Four, 1949年)
また、
ジョージ・クルックシャンクという大物版画師が、ディケンズの処女作『ボズのスケッチ集』の挿絵として入れた銅版画には、
「男が左手でカップを持ち、右手で受け皿を口にもっていって飲んでいる絵」がある。
これは十九世紀半ばのイギリス庶民の生活風景の典型らしく、この飲み方も広く一般的だと思われる。この絵からは、
決して裕福ではなく ごく庶民的な「現代のサラリーマン」を連想せずにはいられない。
さらに、作者・国籍・年代不詳だが、真ん中の兵士がソーサーから茶を飲んでいる絵もある。
これらから、十八世紀フランスの宮廷社会と十九世紀イギリスの大衆社会の「作法」が同じであるとは!!! 驚きで。
しかも、現代ではこんな無作法だれもしませんね。
それにしても、コーヒーや紅茶などをソーサーに受けて飲んでいたのは事実だし、
それが当時の作法であったことも事実であろう。
では、なぜ わざわざカップから飲まずにソーサーに移したのだろう。
機会があれば、また調べてみたい。