「コーヒーを一杯いれましょう」
この束の間の休息から、
限りない時間を味わう愉しみを知る人は幸いです。香ばしく立ち上る湯気の中に、懐かしく切ない過去を見たり、ほんのりと見え隠れする未来を想像する。
今、この瞬間、この場所に身を置きながら、あてどなく散歩をする愉しみは、誰にも侵すことのできない、心と体のリラクゼーション。
孤独な散歩者の夢想は、もう一つの現実を持って漂います。嘘の現実。ここでは何もかも自由です。私が女でも男でも、善人でも悪人でも、主人公は、憧れの人でもいい。思い切りの願望をイマジネーションにまかせて旅をさせてみましょう。秘かなる恋が、世紀の恋になる。
失意のどん底から立ち上がってみる。永遠の命を与えられた勇者は、どんな軍隊でも倒すことができない。それはもう壮大な白日夢の世界が現れてきます。
この、嘘の世界で主人公が暮らし始めるとひとつの秩序が生まれ、物語になる。コーヒーを味わう小さな時間からつむがれた物語の登場人物が、また、その生活の中でコーヒーを愛したりするパラレル・ワールド。私たちはコーヒーを飲みながら、その物語の主人公と一緒に旅をし、胸をときめかせます。
人の想像力は時空や次元を超えて、おとぎ話や小説に着地する。書き手の想像力という不思議な脳と心と魂の作用が、読み手のそれにアクセスすれば、大好きな作品の一つになるでしょう。
コーヒーを一杯いれましょう。この束の間の休息から、限りない時間を味わう愉しみを知る人は幸いです。思いを漂わせたり、お気に入りの作家が書いた本を読んだり。かぐわしい、入れたてのコーヒーを前にして、日常の自分にさよならを言ってみます。
「ボン・ボヤージ・よい旅を!」