コーヒー豆の準備が整ったら、いよいよコーヒーの粉にお湯を注ぐ最後の過程です。長い年月の間に、おいしいコーヒーをいれる道具と技術がいくつか生まれました。
ここでもコーヒーは、飲む人の好みにあわせて選ぶ幅をもっています。
●ネル・ドリップ式
一八世紀頃、フランスで考え出された、ネル・ドリップ式は、ネルのこし袋に粉を入れ、上からお湯を注いでコーヒー液を抽出する方法で、こくのあるおいしいコーヒーをたてられます。
[準備と器具]
・ネルのこし袋
ネル・フィルターとも呼ばれています。形はおだやかな放射線を描くものがよく、粉をいれたときに半分以上の余裕がある大きさが必要です。布地はバイヤス裁ちになっていないものが目詰まりを起こしません。また、起毛がフィルターの内側にあると目詰まりを起こしやすいので、フィルターの外側にあるものを選びましょう。ネルとは、手触りが柔らかく起毛している織物"フランネル"のことです。
・ポット
コーヒーをたてるには、口先が細く、長いほうが使いやすいものです。コーヒー用のポットもあります。
・コーヒーサーバー
[抽出の手順]
1.よく水で洗ってから、ネルの部分をにぎって柄をまわしてしぼります。ネルを両手ではさみ、押さえつけるようにして水をしぼってもかまいません。どちらにしろ、布が軽く湿っている程度にします。
2.起毛した布目を内側にして、ポットにしっかりセット。ネル袋のなかにメジャースプーンで定量分に量った中挽きのコーヒー粉を入れます。(一人分一〇〜一三グラム)ネルを軽くふって表面を平らにし、中央に浅くくぼみをつくります。このくぼみはお湯をここにためて、より全体にしみこみやすくするためです。
3.沸騰したお湯を弱火で保温しながら、ポットの先をできるだけくぼみの中心に近づけて、静かに、できるだけ細く、くぼみの中心から円を描きながら、お湯をうずまき状に注いでいきます。
4.粉が細かい泡をたてて、ぷわっとふくれてきます。三、四回に分けてお湯を注ぎますが、三、四回目のときにはもりあがった粉が中央からへこみはじめたところで注湯するようにします。
5.抽出を終えた後のネル袋は、洗剤を使わずによく水洗いします。そして、袋の全体を水に浸して保管します。これは乾燥すると布に付着しているコーヒーの脂肪分が酸化して悪臭を放ってくるのを防ぐためです。
●ペーパードリップ式
ネル・ドリップ式よりも手軽にできる抽出法です。初めての方にもおすすめ。ペーパーフィルターは使い捨てですから、簡単かつ清潔であることもペーパードリップ式のメリットです。
[準備と器具]
・ドリッパー
一つ穴式と三つ穴式とKONO式とがあります。抽出する速度が違ってきますので、細挽きには一つ穴式、中挽きには三つ穴式・KONO式の豆がよいでしょう。
・ペーパーフィルター
ペーパーフィルターには、台形と円錐形の2種類があります。円錐形のフィルターはKONO式に、台形のフィルターは一つ穴式・2つ穴式どちらにも使えます。ペーパーフィルターはそのままドリッパーに入れるのではなく、接着部分を折って使います。台形のフィルターは、まず底を折り、側面の接着部分を底とは反対側へ下ります。そして、ドリッパーに押さえぎみに入れます。円錐形のフィルターは、接着部分を折りドリッパーに入れます。
・コーヒーサーバー
一回に抽出できるのは五、六人分くらいまでが目安です。人数分の目盛りがついているので便利です。サーバーはあらかじめ温めておきます。
・ポット
コーヒー用の口先が細く、長いポットがあれば最適です。
[抽出の手順]
1.折ったペーパーフィルターをドリッパーにぴったりとセットし、温めたコーヒーサーバーの上にのせます。次に、細挽きか中挽きのコーヒーをメジャースプーンで定量分量って入れます。(一人分一〇〜一三グラム)
2.沸騰したお湯を少し落ち着かせてから、粉の中央にお湯を細くのせるように注ぎ入れ、二〇秒ほど蒸らします。
3.蒸らしで粉がふくれたら、泡が消えないうちに、今度は中央からうずまき状にお湯を注ぎます。外側までいったらまた内側へと戻ってきます。一回または数回に分けて注ぎます。
4.サーバーの人数分の目盛りまでコーヒーが落ちればできあがりです。
●インスタントコーヒー
沸騰したお湯さえあれば、いつでもどこでも、そしてだれにでも手軽にいれられるのがインスタントコーヒーです。
器具は何も必要ありません。
[抽出の手順]
1.カップはあらかじめ温めておきます。
2.一杯分は、インスタントコーヒーをティースプーンに山盛り一杯(二グラム〜三グラム)が標準量です。お好みで量を加減します。
3.定量のコーヒーをカップに入れたら、沸騰したお湯を注ぎ、砂糖とミルクを入れます。それぞれの量はお好みで。
4.大人数の場合には、個々に入れるよりも、ポットなどに人数分のコーヒーをつくってから、それぞれのカップに注ぐほうがおいしくいただけます。
●サイフォン式
スコットランドの研究室で誕生した空気圧を利用した抽出法です。透き通ったサイフォンの中でポコポコという音がたち、香り高いコーヒーができあがるプロセスを見る楽しみもあります。
[準備と器具]
・サイフォン
通常サイフォンは、ロート・フラスコ・スタンド・フィルター・メジャースプーン・ランプがセットになっています。ランプはアルコールランプです。
コーヒーを抽出する前にはゴムのパッキング、フィルターとスプリングの点検をしましょう。パッキングがゆるんでいるとフラスコ内が真空になりません。
・竹べら、またはスプーン
[抽出の手順]
1.フラスコに人数分の水かお湯を入れ、ポコポコいうまで沸騰させます。フラスコは必ず外側の水滴をよく拭き取ってから火にかけます。
2.上部のロートにネルのフィルターをセットし、細挽きあるいは中挽きのコーヒー粉を量っていれます(一〇〜一三グラム)。
3.フラスコからお湯が上昇し、上部のロートに昇りきったら、竹べらかスプーンで軽くかきまぜます。一分〜一分半ほど沸騰させつづけてから火を消します。
4.三〇秒くらいたつと、フィルターでこされたコーヒーがフラスコのなかに下りてきて、できあがりです。
●直火式エスプレッソ
イタリアで広く飲まれている濃いコーヒーです。イタリアン・ローストの微粉に挽いた豆を、沸騰の蒸気圧を利用するエスプレッソ器にかけて素早く抽出します。コーヒーのエッセンスのように濃いコーヒーなので、小さなカップで少量を味わいながら飲みましょう。
[準備と器具]
・直火式エスプレッソ器
[抽出の手順]
1.下のポットに人数分のお湯を入れます。中央部のフィルター(バスケット)に、イタリアンローストのごく細挽きのコーヒーをメジャースプーンで定量分、量っていれます(一人分八グラム程度)。
2.上のポットにしっかりと取りつけて、火にかけて沸騰させます。
3.蒸気の圧力で熱湯が上がり、コーヒーの入ったフィルターを素早く通過すると、 濃いコーヒーが上のポットに噴出されてできあがりです。